2006/10/31

マタギ文化を滅ぼす環境保護団体

行き過ぎた環境保護?

Amazon.co.jp: マタギ食伝: 本: 村井 米子 Amazon.co.jp: 白神物語?マタギが愛した奇跡の山々: 本: 西口 正司

エベレストや富士山の清掃登山などで有名な野口健氏が、日経新聞の土曜夕刊に「ガイア礼賛」というコラムを連載しています。

10月28日のコラムを読んで、白神山地が世界遺産に指定された後、環境保護団体の運動により去年から白神でのマタギの狩猟まで禁止されてしまったことを知り、ため息が出てしまいました。

同様の内容の記事が2006年7月3日の毎日新聞にも載っていたようなので、紹介しておきます。

 毎年、マタギの方々と白神山地を歩く。彼らの自然との接し方こそが環境問題を考える上で大きなヒントになるからだ。白神山地が世界遺産となり環境保護が謳(うた)われると、クマや山菜をとるマタギの存在が環境破壊だと非難する団体が現れた。確かにマタギはクマなどを狩猟してきた。しかし、彼らは必要な分だけとる。山菜も根っこを残し広範囲から少しずつ採取する。白神山地の恵みをいただきながら感謝し、祈りをささげる彼らは決して乱獲などしない。なによりも白神山地に対して常に謙虚。私はマタギの生き方から人と自然の共生を学んだ。

 しかし、残念ながらマタギの白神山地での狩猟は禁止されてしまった。こうしてまた一つ、日本から文化が消えようとしている。

知床ナチュラリスト協会の代表理事の方が書いた「人と自然とスピリット」という記事の中では、白神のマタギの方が、自然保護団体は、今では最大の敵になってしまったかもしれない…。と語っていると書かれています。

山の神々と折合いをつけつつ貴重な山の幸を分けてもらうという、自然と共にあるという謙虚な哲学はマタギ文化の中でとても重要な意味がある。だから、何日も山にこもるということはただ単に獲物を捕らえるためという以上に大切な手順の一つであるはずだが、管理計画では「焚き火禁止」、それ以前に「山菜の採集は禁止」と山の中にはいることそのものまでも否定されてしまった。吉川さんは「かつては世界遺産になれば全てが救われる」と思っていたが、今では「自然保護団体は、今では最大の敵になってしまったかもしれない…。」と語っていた。吉川さんは自らの生活スタイルの変化というよりも、そう言ったすぐれたエコライフスタイルースピリットが日本から姿を消すことに懸念を持っているのだろう。

環境保護団体の働きかけでマタギの狩猟まで禁止になってしまったと書きましたが、Web 東奥の白神山地の記事によると、これについては環境保護団体によっても立場が分かれていたようです。

青秋林道建設を中止に追い込むまでは一致団結していた青森県側の自然保護団体だったが、世界遺産になってから、人を入れるべきではない、いや入れるべきだ、という路線の違いで分裂した。

気になったので、どこの環境団体が必要以上に厳格と思われる入山規制を主張したのか調べてみました。

秋田側が入山規制を主張?

Web 東奥には、少し古い情報と思われますが、以下のように書いてあります。

 一方、入山規制に反対しているグループは「もともと白神山地はマタギなど人々と深くかかわってきた。自然と触れ合ってこそ自然が理解できるようになる」と主張している。

 このため青森営林局は1997年、白神山地の核心部への入山の扱いを決めた。これは、入山規制派と規制反対派の両者の折衷案ともいうべきもので、既存歩道5ルートは無条件で、また新たな27ルートは営林署への簡単な手続きで入山を認めることになった。

 もともと人とのかかわりが希薄だった秋田県側の白神山地は、全面立ち入り禁止となっており問題も起こっていない。

これによると、青森側では昔からの入会権を尊重する動きだったのに対し、秋田側ではあっさりと入山が禁止になってしまったようです。(秋田県でも阿仁のマタギなどは有名ですが、白神に近い方では盛んではなかったということでしょうか。)

白神山地と三内丸山遺跡からの発信というページにも秋田側が入山禁止を主張していることが書いてありました。

入山の禁止・規制について 青秋林道建設中止のために一緒に闘った自然保護団体でありながら 秋田県側(賛成)と青森県側(反対)の意見が 二手に分かれて争っています

しかし、以上をもって、秋田側が一方的に入山規制したとは言えるかはわかりません。現状の入山禁止/入山規制を見直してほしいということで「白神山地の保護と管理計画に関する要望書」というのが青森県に対して提出されており、提出団体には秋田県自然保護団体連合も名を連ねています。ただ、白神2000プラン−鰺ヶ沢大会決議には、秋田県側自然保護団体には、わざわざ踏み込んでもらって決議文を出せたようですから、やはり温度差はあるように思えます。

白神山地の環境保護団体

そもそも白神の環境保護団体というのはどのようなものがあるのでしょうか。Z会 エコロジー<世界遺産 白神山地> 白神山地を守る会代表 永井雄人さんに聞くによると、約5団体ということです。

現在白神山地に関わる自然保護団体には「白神市民フォーラム」「白神山地を守る会」「白神NGO」など、およそ5つの団体がある。

そして各団体の関係が良くないということが書かれています。人が集まると政治が起こるのは世の常でしょうか。

白神を守ろうということで作られた団体はおよそ5団体ですが、今それぞれの関係は決して良い状態にあるとは言えません。しかしもう一度皆で同じ席について、情報の交換などもしあって、これからの白神を考えていこうと働きかけているところです。そして勿論そこには一般の人たちの意見を聞く場もなければなりません。

インターネットで検索して出てくる範囲では、名前が挙がっている団体のうち、「白神NGO」は規制に積極的な印象を受けました。

東奥日報 - 自然保護団体が白神の管理制度見直しに意見書

白神NGOは、意見書で「許可制下でもルールに従わない入山者が後を絶たず、対処方法すらも考えられずにきた」とした上で、(1)違法な渓流釣りなど現在問題になっている事項全般についての議論が必要(2)議論は市民参加の懇話会のような形でなされるべきだ−などと青森分局に訴えた。

世界遺産・白神山地の自然保護とその問題点

しかし、奥赤石川林道については白神NGOが提唱し青森営林局が同調したことにより「立入禁止」となり、そこでの観察会は実施できなくなりました。

青森県の自然保護関連団体秋田県の自然保護関連団体を見ると、白神NGOは両方に載っているので、特に秋田の団体というわけではなさそうです。

Amazon.co.jp: 白神山地をゆく?ブナ原生林の四季: 本: 根深 誠

さらに調べていたところ、白神・黄葉の谷とキノコ狩りというページにて白神NGOを直接非難する決定的な文言を見つけました。「白神山地をゆく」の「文庫版によせて」に書かれている文章ということです。

一部自然保護関係者との深刻な対立

 「一部自然保護関係者というのは、地元弘前大学M教授の発案で組織された゛白神NGO゛という御用団体であり、行政当局とはブナ伐採をもくろんでいた所轄営林局にほかならない。のちに゛入山禁止゛は゛入山規制゛に変節し、青森県側についていえば゛入山の届出制とルート指定゛という結果になっている。

 ・・・以前、゛白神NGO゛関係者によって、私は何度も個人攻撃をかけられたことがあった。たとえば、私が同行した新聞社の掲載記事に批判文や謝罪要求文を送付したりしたのだった。支離滅裂、狂気の沙汰としか言いようがない。関係者が内密で知らせてくれたのだが、挙句の果ても逆恨みして私の゛家に放火したいほど憎らしい゛と暴言を吐くにいたっては、もはや言語道断だ。

ヤマガラの山旅日記 - 残雪の白神岳にも、白神NGOが入山規制を進めてきたと書いてありました。

林野行政当局や白神山地世界遺産地域連絡会議や白神NGOが進めてきた白神山地の入山規制を軸にした管理計画の根幹は世界遺産だから森林生態系を保護するため、人間と自然とのかかわりをなくそうとしていることに大きな問題がある。

なお、白神NGOの発起人らしい地元弘前大学M教授とは、白神2000プラン−鰺ヶ沢大会決議に名前が出てくる弘前大学農学生命科学部・牧田肇教授でしょうか(こちらにも牧田肇教授のプロフィール)。山研ニュース 06-1 号によると、2006年3月に退職したとあります。マタギに関する文章も書いているので、マタギの実情を知らないわけはないと思います。なぜこのような対立が生まれているのか気になるところです。

一応最後に

白神2000プラン−鰺ヶ沢大会決議では、

今回の鰺ヶ沢大会は、世間から自然保護団体が分かれているという風評の誤解を解くという位置付けもあったのです。

と書かれています。当事者の間では今まで何度も話し合いが持たれて、きっと単純な対立という枠組みで括れるようなものではなく、いろいろな事情もあるのでしょう。私もここでネットでわかる範囲で調べてみましたが、もちろん対立を煽ったりすることが目的ではありません。

ただ、外部の者にはなぜマタギまでが入山禁止になったのか、それが十分な合理性がある理由であるというところは、これだけ調べても見えてきません。この問題に関しては、東北自然保護団体連絡会議の「世界遺産白神山地ってどんなとこ?」が一番資料が豊富ですが、ここを読む限りは、現在の入山規制は行き過ぎであると思えます。

マタギが狩る熊の数より、駆除される熊の方が遥かに多い(2006年12月19日追記)

冒頭で言及した日経新聞2006年10月28日夕刊の「ガイア礼賛」では、マタギが狩る熊の数より、駆除される熊の方が遥かに多いということに触れられていました。

ちょうど捕獲・殺処分されるツキノワグマの数について言及している読売新聞記事キャッシュ)を見つけたので、紹介しておきます。

本州各地で今年4月から11月末までに、ツキノワグマ4737頭が有害捕獲され、うち9割の4250頭を殺処分(捕殺)していたことが、読売新聞の全国調査でわかった。

今年は過去のデータと比べても異常に多いということですが、去年までの10年間の平均でも年間1173頭のツキノワグマが捕獲されているそうです。

マタギに関する参考リンク

ポスト @ 3:29:35 , 修正 @ 2006/12/19 2:23:13 | , | 「このエントリーを含むはてなブックマーク」ボタン この記事「マタギ文化を滅ぼす環境保護団体」を含むはてなブックマークの数

1 Comment

Re: マタギ文化を滅ぼす環境保護団体

 地元、津軽の事について書いたゴンボホリの系譜を読むとよりふかくわかるかもしれません。自分の私見では、いわゆる津軽選挙に代表されるよう、裏にはお金の存在があると思います。
 思いついたまま書かせていただきたいのですが、こんな秀峰岩木山と白神山地に代表される美しい地域に、よくもまあこんなことがと目を覆いたくなるような事がたくさん津軽にはあります。
 いろんな意味で、白神山地の問題は考えさせる事ばかりです。日本の教育からほんとうにいろんなことです。
 白神山地が抱えている『余裕』という事を皆さんで考えればと思います。

From : 匿名希望さん @ 2008-10-03 01:49:45 編集

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