2006/09/30

山岳遭難と捜索費用と山に登る意味(上)

まずは捜索費用から

散人さんの「八ケ岳で雪崩、登山客4人重軽傷……なんであんなところに人が行く?」を読んで、ずっと引っ掛かっていたことがあります。引っ掛かっていることの本題は費用ではないのですが、まず費用の具体額を考えてみます。

ま〜、救出費用なんかで数千万円の費用の請求が家族に行くらしい。

自分の知っている範囲ではこれは間違っていると思いました。確かに民間のヘリコプターは高額で、1分1万円とも言われますが、大体1回の出動で50〜100万円はかかるようです。これに加え、民間の救助隊が出るとその費用もかかりますが、高い場合で数百万というように認識していました。発見・救出が早いほど、費用は少なくて済みます。

山岳保険から捜索費用を考える

東京都山岳連盟の都岳連遭難共済の補償プランは掛け金に応じて、150〜300万円となっています。共済ではなく損害保険の場合でも、木村総合保険事務所のオールラウンド遭難捜索費用保険を見ると、遭難捜索費用保険金が100〜200万円になっています。(なお、救援者費用保険金は500万円ですが、雪山やクライミングなどの場合には救援者費用の対象にはならず、遭難捜索費用で補償されることになります。)

補償額がこの程度ということは、大抵の場合はこの範囲に納まるということではないのでしょうか。都岳連遭難共済の2005年度の実際の支払い事例を見ても、最大が約143万円で、ほとんどは100万円以下です。

ただ、以上は救出(もしくは遺体回収)が速やかに済んだ場合で、もちろんヘリコプターを何度も飛ばすようなことになったり、捜索隊を何度も派遣すれば、費用は急速に膨らんでいくことでしょう。

一度の遭難に2000万円?

ちょっと情報源が不確かですが、JANJANの2004年2月20日の記事に約2100万円掛かったという話もありました。

関西学院大ワンダーフォーゲル部の14人が遭難、救助された事故で、福井県勝山市の対策本部は救助費用として約200万円を請求する方針を決めた(各紙)

実際に救助にかかった費用はいくらか?TBS「はなまるマーケット」のHPによるとヘリコプター救助作業代1250万円、捜索隊員日当740万円、その他諸経費100万円で合計2090万円!

http://www.tbs.co.jp/hanamaru/week/tue_new.html

同じ事故の費用について書かれた別の記事もありました。

勝山市によると、請求するのは、救助隊に参加した地元山岳会員延べ15人への謝礼や食料費40万円▽臨時へリポート設置費55万円▽対策本部の事務用品費10万円▽部員の家族のバス・タクシーチャーター費8万円−−などで、外部に支払うものを対象にした。市職員延べ約80人の超過勤務手当などの人件費は 試算で320万円になるが、「業務の範囲内」として、請求はしないことにした。

このほか、救助に出動した福井、富山両県、福井、石川両県警、航空自衛隊の ヘリ計5機の燃料費は数十万円、福井県警の警察官延べ約250人の臨時手当は約400万円になるとみられるが、北陸3県と航空自衛隊は「通常の予算内の活動」として、請求しない方針。

これによると、請求された200万円の他に、市職員人件費320万円、ヘリ燃料費数十万円、警察官人件費400万円に言及されており、合計で950万円くらいになります。はなまるマーケットの金額がどこから来たのか知りませんが、上で言及されていないヘリコプター代を民間ヘリと同じ相場で計算したら、合計2090万円となるのでしょう。ヘリコプター救助作業代1250万円と書かれていたし。ワイドショー的に派手に取り上げたいので、金額が大きくなるように計算した感は多少ありますね。

合計2090万円でも、1人頭で考えると150万円くらいで山岳保険の補償範囲なので、そんなものなのでしょうか。14人という大規模遭難なのでそれだけ費用が掛かったと言えます。ヘリや捜索隊を何度も出す場合に該当しますね。

本当にお金がかかるのは

しかし、遭難者が単独もしくは少人数でも多くの費用が掛かる場合があります。救出というより、遺体捜索になり、しかも捜索が長期化した場合です。雪崩に巻き込まれたら(春ではなく)夏になって雪が融けるまで発見されないこともありますし、友人は山で沢に落ちて半年後に海で見つかった知り合いがいるそうです。

警察にしろ、民間ボランティアの救助隊にしろ、まだ生きている(だろう)間の捜索や、既に場所が特定されている場合の救出・搬送はやってくれると思いますが、不明者の捜索となると、初動が終わった後は、不明者の身内や所属している山岳会などの手で続けられることになります。あきらめずに長期間の捜索を続ければ、かなりの費用が掛かるものと思われます。しかし、このような場合は、遺されたものがどうしていくかという話ですから、一般的な救出費用とはまたちょっと性質の違う話でしょう。

さて、本当に書きたいことはこの後なのですが、ちょっと長くなってしまったので、改めて続編としてそれは書きたいと思います。

捜索費用については、livedoor ニュースのパブリック・ジャーナリストの記事に、もう少し詳しく書かれていますので、興味のある方はそちらも見て下さい。

中編に続く...

追記(ヘリコプター費用の具体額)

長野県で活動する民間のヘリコプター会社の方が具体的な金額について言及されていました。

それによると、1時間当たりの費用が、東邦航空の主力ヘリ SA315B (ラマ) で 515,000円、県警ヘリ「やまびこ」AS365N3 が 846,000円、防災ヘリ「アルプス」ベル412 が 869,000円が目安だそうです。

民間に比べると、県警および防災ヘリがずいぶん高いですが、この価格差がヘリコプターの種類のよるものなのか、それとも他に理由があるのかは、私にはちょっと知識がなくてわかりません。

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2 Comments

Re: 山岳遭難と捜索費用と山に登る意味(上)

山岳保険に入ろうと思って、捜索遭難費用の情報を探していたところでしたので、大変参考になりました。有難うございました。

From : rinrin @ 2007-05-01 23:34:21 編集

Re: 山岳遭難と捜索費用と山に登る意味(上)

rinrin さん、お役に立ったようで幸いです。

発想を変えて、すべてを山岳保険でまかなおうとするのではなく、通常の医療保険や生命保険も併せて考えるとよいと思います。山で怪我や死亡しても、山岳保険でまかないきれないことも多いからです。共済系の保険だと、比較的入りやすく、費用対効果も悪くないと思っています。

From : Hiro @ 2007-05-02 23:54:25 編集

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