2006/10/03
山岳遭難と捜索費用と山に登る意味(中)
山岳遭難と捜索費用と山に登る意味(上) の続きです。
前回は全般的な費用のことについて話したわけですが、公的に負担される費用(主にヘリコプター)について書きたいと思います。(前編、後編の2つに分けるつもりでしたが、予想外に長くなったので、この項だけで中編として、3つに分けます。)
ヘリコプター費用の公的負担の是非
現状では、警察・自治体のヘリコプターで救出・搬送された場合は、救出・搬送された側にそれに掛かる費用の負担はありません。
しかし、昨今は携帯電話の普及により、安易な救助要請が増えていることを鑑みてか、一部の自治体で有料化の話もあるようで、実際、2004年に長野県の田中知事(当時)がヘリコプターの有料化の検討を指示しています。(参照記事。なお参照先のヘリ救助費用の計算は多すぎるようですし、山岳保険があっても個人で支払えないとしてますが、計算が間違っています。)
今年1月下旬、長野県の田中知事は、山岳遭難の救助に県所有のヘリコプターを使用した場合の費用を、有料化したい考えを明らかにした。来年度から具体化に向けた検討を始める予定で、県の担当部署には「夏山シーズンの7月までには方向性のメドを立てろ」との意向が伝えられたと聞く。
田中知事発言を受けて長野県議会でも議論されたようですが、今のところ、有料化されたと言う話は聞いていません。有料化方針を示した後の知事会見の質疑を読むと、純粋に長野県の所有しているヘリなのか県警のヘリなのかという問題もあるようです。
信濃毎日新聞 島田誠氏
最後の一点は全く河川整備計画と離れますが、山岳遭難救助のヘリコプター救助の有料化を、危機管理室の方で条例検討を始めたというふうに伺っていますが、これについては県警の本部長が、おととい記者会見でしょうか、県警のヘリについては有料化を今のところ考える予定はないというふうに発言されたようですけども、今の長野県の山岳救助においては消防防災ヘリも飛んでいれば、それから県警ヘリも、それから県が所有していますけども運航自体は県警で行っているヘリと3機ありまして、特に、県警側の運航している2機が無料で行なって、県の消防防災ヘリだけが有料ということも今後考えられますけども、そのあたり県警本部長の見解に対して、県として今後県警側に何か要請をされる考えがあるのか聞かせてください。
信濃毎日新聞の2004年1月23日の記事にも、ヘリの所属の問題や隣県との調整(富山県は消極的な様子)が取り上げられていました。
田中知事が現在は無料の県有ヘリを使った山岳遭難救助を有料化する方針を固めたことを受け、県危機管理室は二十二日、新たな手数料条例について検討を始めた。県が所有し、運航する県消防防災ヘリを対象に、来年度の早い時期の制定を目指す。ただ、実施に向けては、県警が運航する二機を対象にするかどうかなど、県警や隣県と協議する必要が出ている。
消防庁の考え
田中知事発言の後の動きを調べてみましたが、同じ年の7月に、「平成16年度全国山岳遭難対策協議会」の中では、総務省消防庁幹部は有料化について「検討したことはない」
と語っているそうです。
全国遭難対策協議会
ヘリ救助有料化は「考えてない」
7月8日と9日に高知市内に全国の山岳救助関係者が集まって開かれた「全国遭難対策協議会」(文科省、警察庁、消防庁、日本山岳協会、高知県などが主催=32ページ参照)で、総務省消防庁幹部が、長野県が検討している山岳救助に消防防災ヘリを使用した場合の有料化について「検討したことはない」と否定的な見解を示しました。
少し前に話題になった長野の県有ヘリ有料化の問題ですが、7月8〜9日に高知市で開かれた「平成16年度全国山岳遭難対策協議会」の中で、総務省消防庁幹部がヘリ有料化について話した部分の要約を紹介します。
発言者は小池敦郎・消防庁防災情報室課長補佐
消防庁で有料化を検討したことはない。
ただ、有料化はまったく検討されていないというわけではないようです。その後の2005年になりますが、山形県のウェブサイトでは県民からの疑問に答える形で、全国航空消防防災協議会で検討がされていることが書かれています
(なお、この回答の元となった質問に関しては、個人の意志で事故にあった場合と、交通事故のような突発的な事故の場合
を助ける場合に区別しろと言っていますが、そんなことが可能と思っているあたり質問内容が深く検討されて出されたものとは思えません。)
現在全国航空消防防災協議会において、①法的な課題、②有料化の根拠、③運用上の問題、④有料化することによる影響等について検討を進めているところであり、県としては、その検討結果を受け、消防防災ヘリコプターの活動状況や他の都道府県等の動向を見極めながら、慎重に検討してまいります。
有料化について消防庁のサイトを検索してみると、主に救急車を念頭に置いてのことのようですが、2005年5月23日と2006年6月29日に救急サービスの有料化について言及された箇所がありましたが、積極的に進んでいると言う感じではありませんでした。
○ 救急の有料化については、慎重に検討してほしい。
→ 今後、救急需要の伸びが問題になり、それに対応する手段の一つとして、有料化というものを掲げている。今後、総合的に検討した上で、問題がないように検討していきたい。
○ 救急サービスの有料化というのは、解決しなければならない何か大きな問題があるのか。
→ 救急サービスという普遍的に誰もが起きる可能性があるものを税金ではなくて特別の負担で賄うことの方がいいのかどうかという議論がある。仮に有料化するとしても、金額の設定によっては逆に潜在需要を顕在化させることがあるのではないか。有料化している諸外国もあるが、ほとんど保険制度で賄っており、我が国では強制保険制度はないため、一回ごとにお金をいただかねばならず、徴収だけでも大変なことになりはしないか。アメリカ合衆国の一部の都市では、徴収するためだけの救急隊員を1隊に1人置いているとか、あるいは徴収率が4割ぐらいしかなく、国民年金とは比べものにならないぐらい徴収率が低いという発言もあった。有料化は、いろいろ検討する必要があるというのが、検討会の委員の先生方の概ねの総意である。
有料化は効果があるか
田中知事(当時)が有料化を打ち出した背景には、最近の登山者による安易な救助要請があるわけですが、その後の報道で引き合いに出されていたちょっとあきれる救助要請があります。
昨夏、北アルプスで単独登山の男性(29)が1カ月に2度も県警ヘリに救助された。「テントの中でお湯をこぼしてやけどした」「転んで手を切った」。2度とも携帯電話での通報だった。現場に急行すると、男性はいずれも元気な姿で両手を振ってヘリを誘導した。ヘリの県警航空隊員は我が目を疑ったという。
文面通りならひどい話には違いありませんが(マスコミ報道も意図的に曲げられていることは多々あり、当事者へ話を聞いてみたら語られていない真相もあるかもしれないので決めつけるのはやめておきます。エルサレムの聖誕教会周辺が緊張しているときに何も知らない日本人カップルがのこのこ出掛けて行ったという報道が以前ありましたが、当事者の話を読む限り、報道の内容も眉唾物です。)、これをもって有料化論に話を持って行くのは、ちょっと煽られ過ぎかなという気がします。事実がこの話を文面通りだったとしても、どこの世界にも常識を疑う人間は存在しますし、警察に救助要請としたとしても、警察のヘリが出払っていれば、民間のヘリコプターが飛んで来て、50万、100万円という請求が来たら自業自得だったわけですし。
ただ、救助体制というのは都道府県によって異なっているので、それを承知した上でお金の掛からない方に救助要請したのではないかと批判されている件もあったようです。
今年一月、槍ケ岳山荘冬期小屋に避難していた山岳会男女十一人の遭難救助では、インターネットで議論や批判が集中。「食料もあり、特にひどいけが人がいたわけでもないのに、ヘリを要請したのは安易」「民間ヘリを飛ばして高額な料金が請求される長野県警ではなく、岐阜県警に救助を求めたのは税金でヘリを飛ばしてもらえるからでは」などと千件に上る意見が掲載された。
一方でヘリコプターでの救出が必要な状態なのに、費用を払いたくなくて、ヘリでの救出を拒否し、かえって迷惑な場合などもあります。
また登山者の安易な救援要請が自治体の財政に負担を強いているとする意見に対して、実際は、林業関係者に対する出動が多い、飛行時間の4割は訓練飛行であるという指摘もありました。
★ http://www.geocities.jp/ja6759/
高知県の消防防災ヘリのパイロットが運営しているHPですが、災害別出動実績をみていただければ、山岳というのが、結構ありますけど、実際の内容は、林業関係者が圧倒的です(登山活動も含まれてますが)。
なお、救急車の例では、有料化が不急の救急車利用を抑制しないとするデータもあるようです。
私の意見としては、有料化されても山岳保険に入っていればいい話だと思いますし、自己責任で山に入っているので費用負担することになっても受け入れるべきものであると思いますが、根拠がはっきりしないまま気分だけで有料化に向かうのは避けてほしいと思います。
後編に続く...(まだ未公開です)。
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