2007/02/20
乳脂肪分が高いのがおいしい牛乳という幻想?
一般に牛乳は乳脂肪分が高い方が高級というイメージがあって、実際に値段も高くなっています。乳脂肪分が高い方がコクがあっておいしいともよく言われてます。
明治北海道の贅沢しぼりミルクは乳脂肪分3%
ところが先日、何の気なしに買った明治乳業の北海道の贅沢しぼりミルクが、おいしかったのです。乳脂肪分は普通に売られている牛乳よりずっと少ない 3%しかありません。
この牛乳は日垣隆氏のブログでも、日本で一番おいしい牛乳として取り上げられていました。
北海道の贅沢しぼりミルクがおいしく感じる理由は?
この贅沢しぼりミルク、普通の牛乳かと思っていたのですが、よくパッケージを見ると、成分調整乳と書かれていることに気がつきました。一般的な牛乳は大概成分無調整です。
明治乳業の説明によると、生乳を濃縮した牛乳ということのようです。何かを添加しているわけではありません。
フィルターに通すことによって水分やナトリウムの一部を除去し、カルシウムやたんぱく質等の優位成分のみを濃縮しています。
生乳以外に一切何も使用していません。牛乳の成分を選択的に濃縮しているので、普通牛乳に比べてカルシウムが1.4倍、たんぱく質が1.3倍含まれています。
甘みを普通の牛乳より感じるのは、水分が除去された分、乳糖が濃くなるからではと思ったのですが、その旨の説明もありました。
乳脂肪分は3.0%に調整し、普通牛乳よりも控えめなのに、濃厚なコクと自然な甘味を味わうことができます。
それは、乳脂肪分だけで牛乳のコクや甘味を感じるのではなく、濃縮された成分の乳糖などにより、牛乳の自然な甘味や濃厚なコクが感じられるからです。
明治乳業のプレスリリースに、もう少し詳しい説明がありました。
かつて三八牛乳というものがあった
ところで安心!?食べ物情報によると、その昔、この贅沢しぼりミルクと同じ乳脂肪分3%、無脂乳固形分8%という比率の、通称三八牛乳というものがよく売られていたそうです。
牛乳の成分表示を見ると、「乳脂肪分」と「無脂乳固形分」という項目があります。牛乳の規格を定めた「乳等省令」では、乳脂肪分3%以上、無脂乳固形分8%以上、であることが求められています。
実際に牛が出す乳はもう少し成分が濃いのですが、まあ最低基準として決められたものです。20年前には、夏場はこの規格に達しない牛乳も生産されていましたが、だんだんと生産者の淘汰が進んで、そのような生産者はなくなってきています。
ところが、この基準を悪用して、乳脂肪分3%無脂乳固形分8%という基準ぎりぎりの商品が売られていました。これが悪名高い雪印の「サンパチ牛乳」です。
検索してみると、昭和49年の国会の農林水産委員会の中でも三八牛乳のことが取り上げられていました。バターと脱脂粉乳で味を調整した加工乳ということらしいです。バター,脱脂粉乳、水を使った、濃縮還元ジュースの牛乳版みたいなものですね。(ちなみに濃縮還元のジュースは、味を調整するため、必ず香料が入っています。)
贅沢しぼりミルクの原料は生乳のみで、バターや脱脂粉乳、その他の添加物は使っていない成分調整乳で、加工乳であった過去の三八牛乳とは似て非なるものと思いますが、そんな歴史もあったのですね。価格面でも、普通の牛乳より廉価であった三八牛乳に対し、贅沢しぼりミルクは味をよくするためのいろいろな技術を使っているためか 1000ml 270円と高めの価格設定です。
ホモジナイズドしていると薄く感じる
市販の牛乳のほどんどはホモジナイズ(均質化)されていますが、ノンホモ、つまりホモジナイズされていない牛乳はおいしいという話があります。これは脂肪球の大きさが関係あるようです。
明治ミルク宅配のQ&Aより:
近の牛乳は、昔と比べて味が薄く感じるという人がいますが、そんなことは一切ありません。法律で水や添加物を加えることを一切禁じています。
薄く感じる訳は、牛乳の中にある脂肪玉(通常1〜12ミクロン)のためです。脂肪玉が大きければ大きいほど牛乳が濃く感じ、また上に脂肪分が浮いてくるので体内に吸収する率も悪くなります。
人々が高乳脂肪のものを求めるのは、市販の牛乳のほとんどがホモジナイズされているせいもあるのでしょうね。
乳脂肪分3.5%以上は異常?
中洞牧場というところからの情報なのですが、自然放牧していると乳脂肪分は 3.5%にならないという話がありました。
自然に放牧された牛乳の乳脂肪分は3.5%にならないということを御存知でしょうか?
日本の乳業では、この乳脂肪分に関する大きな誤解があります。乳脂肪は3.5以上という基準があり、乳脂肪が多ければ多いほどいいような風潮がありますが、実は自然放牧しているとこの乳脂肪分はできません。自然放牧している牛の乳脂肪分はせいぜい3.2%ほど3.5%以上の乳脂肪分を持たせるには、狭い牛舎に牛を固定し高栄養な飼料を食べさせることで、生産されているものです。最近でこそ牛舎の中を動けるようにした、形態も出てきているようですが、それでも、単に、牛舎の中を歩き回れるという程度に過ぎない話です。
日本の牛乳はデンマークの低脂肪乳よりまずく感じるという話もありました。
日本の牛乳は、デンマークのホールミルクよりもローファットミルクよりもまずい。おいしさは、脂肪率の高低ではないのだと思います。
情報源は特に示されていませんが、デンマークでは、日本と違い大豆やトウモロコシのような飼料より、畑で育てた小麦や大麦を牛に食べさせており、多くが放し飼いされていることが牛乳の味に影響があるのではないかという旨のことも書かれています。
少し古い情報になりますが岡山畜産便り 昭和29年2月や、他国ですがスウェーデンの事情を見ると、少なくとも冬は舎飼い、夏は放牧のようです。日本は常に舎飼いがほとんど。
金で取引される乳脂肪分
国会でのやり取りを読んでいたら、以前は乳脂肪分の基準は 3.2% だったという話がありました。
たしか昭和六十二年までは、牛乳、生乳の取引の基準ですね、乳脂肪でもって三・二%だったと思うんですよ。それが現在三・五ということになっておるわけですね。これは大変な品質の向上といえば向上なんですよね。
そして、厚生労働省のサイトにある薬事・食品衛生審議会で話された乳及び乳製品の規格基準の改正についてという議事録からは、0.1以下の乳脂肪率のパーセンテージを巡って、お金のやり取りがされている様子が垣間見えます。
実態的に乳脂肪分コンマ1%についてはいくらとかいう取引もなされていると聞いております
乳脂肪率偏重の影響が出ているように思えます。
こんなに乳脂肪率がもてはやされるようになったのは、上で挙げたホモジナイズの影響もあるかもしれませんが、そもそも畜養マグロのトロをありがたがるような舌では、単純乳脂肪分が多いものをありがたがるのはしかたないのかもしれません。
- 当ブログ関連記事:トロの比率9割のマグロ
あ、そうそう。よくコーヒーに付いてくるコーヒーフレッシュというやつ、あれの主原料は牛乳ではなくて、ただの油なのですよね。よくて脱脂粉乳が入っている程度で、乳製品が一切入っていないものも多いです。白い色はミルクではなく、油が乳化しているだけ。人間の舌など元々そんなものなのでしょうか。味覚にうるさすぎても、環境に適応できないでしょうから、地球上に人間が繁栄しているのは、人の味覚の幅が広いからとも考えられます。
また、世の中、健康に気をつかって、ダイエットやカロリーを気にする人が多いようなのに、トロや霜降り肉、乳脂肪たっぷりのものが好まれるのは、飢えを凌ぐために脂肪を蓄えることが本能だった時代のなごりなのなのかもしれませんね。
トラックバックをいただいたので、追記をしました。
外国の低脂肪乳(追記)
トラックバックをいただいた on our way home さんの印象では、デンマークのローファットミルクが日本の牛乳より上という印象はなかったそうです。
「デンマークのローファットミルクは日本のそれよりもおいしい、という話がある」と紹介されていたが、僕が飲んだときはどちらも同じような味わいに感じた。むしろデンマークのもののほうがより水っぽい印象があったのだが、これはもう一度試してみたくなるなあ。
私個人の経験としては、ポーランドでローファットミルクを好んで飲んでいたことがあるのですが、くどくないのでゴクゴク飲めるという印象でした。水っぽいと言えばそうなのかも?たくさん飲んでいたくらいなので、まずかったという印象は全然ありませんが。
日本ではよく、高い乳脂肪率の牛乳のおいしさを「コクがある」と表現します。この辺りはおいしさの基準をどこに置くのかにもよるのだと思います。今回の記事を書いて、私も改めて外国のおいしいとされる低脂肪乳を飲んでみたいと思いました。
おまけ:牛乳は飲んではいけないと主張する人々
例えば「牛乳は牛の赤ちゃんが飲むもので、人間が飲むものでない」というような主張がありますが、Wikipedia の牛乳の項に、このような理論が通るのなら人間は人肉か母乳以外摂取できなくなる
という秀逸な反論があり、思わず笑ってしまいました。
その他にも、牛乳へのトンデモ系の非難に対する反論が簡単にまとめらているので、興味のある方は一度目を通してみてください。
牛乳は体が悪いという意見は、以前からマクロビオテックや一部の自然食愛好家が主張していたものですが、新谷弘実の「病気にならない生き方」という本が割に売れて一層広まったような印象があります。新谷弘実氏は一応医師らしいのですが、健康食品販売を手がけてるし、書かれている内容もちょっとなぁ、という感じです。何、ミラクル・エンザイムって。酵素は酵素でしょう。リテラシーのある人ならわかると思いますが、新谷弘実氏はトンデモだと思います。牛乳有害説がいかにいい加減なものかについては、以下を読んでみましょう。
私も闇雲に牛乳を礼賛したり、学校給食で牛乳を毎日飲む必要はないのではと思いますが(敗戦後、パン食が導入されたが故の結果と思います)、牛乳は毒だと言わんばかりの主張も、偏った意見だと思います。
3月29日追記:上記の新谷氏に対し、医師や栄養学の専門家らでつくる牛乳乳製品健康科学会議が質問状を送ったそうです。
J-MILK 日本酪農乳業協会のサイトにも、「牛乳についてのとんでもない話」というQ&Aができてました。
牛乳のおいしさはグルタミン酸含有量が多いためもあるらしい(3月10日追記)
2007年3月10日の日経新聞 NIKKEI プラス1 18面「医食同源」という記事には
グルタミン酸は、うま味成分としてよく知られているが、 牛乳には、昆布に次いでグルタミン酸が多く含まれている。
との記述がありました。
牛乳のグルタミン酸含有量はどのくらいなのだろうと思って調べてみたのですが、「科学データ集と食品の成分データ表 & 十五社神社と神様」によると、牛乳の場合、可食部100g当たり 560mg だそうです。対して昆布は 1700mg。水分がたくさん含まれている牛乳と、乾燥した昆布を単純に比較しても、結局グルタミン酸が多いのか少ないのかさっぱりわかりませんね。
他のものも調べてみましたが、豆乳が 680mg、こい口しょう油 1500mg、納豆は 3200mg!納豆すごい。簡単に比較できるのは豆乳くらいですが、若干牛乳より豆乳の方がグルタミン酸が多いとはわかりますが、他の食品との比較はやはり難しいですね。
4 Comments
Re: 乳脂肪分が高いのがおいしい牛乳という幻想?
まさか、こちらのブログで牛乳ネタが出るとは想像できませんでした
たしかに「おいしい牛乳」はおいしくないですね。
わが家でも牛乳にはこだわりがあります。こだわりがあると言っても、成分内容を吟味するほどのこだわりではないのですが (^^;
わが家で現在ひいきにしているのは「カルシウムと鉄分の多いミルク」です。http://www.glico-dairy.co.jp/product/product_sub.php?pcd=103920b
あら不思議、これも乳脂肪分3.0%ですね。しかもこれ『牛乳』ではなくて『乳飲料』なんですね。『成分調整牛乳』ですらない。でも、“安くて”おいしいんです、これ。味を調整してあるのでしょか?
こんど、贅沢しぼりミルクを飲んでみます。
From : four @ 2007-02-20 09:09:25 編集
Re: 乳脂肪分が高いのがおいしい牛乳という幻想?
コンピュータ関連以外でも、興味を引かれたことをつづっているので、雑学っぽいこともぼちぼち書いています。主に「雑記」タグが付いています。
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さくっと書けるとよいのですが、書き出すといろいろ調べてしまうので、筆が遅くて困っています。ネタはいろいろあるんですが。
From : Hiro @ 2007-02-21 01:06:45 編集
Re: 乳脂肪分が高いのがおいしい牛乳という幻想?
牛乳が切れかかっていたので、スーパーでこの牛乳を買ってきました。
さっぱりしているのに濃い牛乳と云う印象を受けました。しばらくはいろんな牛乳を飲み比べて見ようと思います。
From : Pafuxu @ 2007-02-21 02:13:49 編集
Re: 乳脂肪分が高いのがおいしい牛乳という幻想?
ちょっと高いですが、最近は時々しか牛乳を買わないので、別にいいかと思って時折買ってます。カスピ海ヨーグルトをつくっていたときは、しょっちゅう買っていたんですけどね。
From : Hiro @ 2007-02-22 01:14:38 編集