割と最近、身内を山で亡くしました。
そして「岳」という漫画を買いました。ビックコミックオリジナルの増刊号に掲載されている作品で、最近は増刊でない方のオリジナルにも時々載っています。
長野県の遭対協(山岳遭難防止対策協会)所属の島崎三歩を主人公にした山岳救助の漫画です。厳しい山岳遭難の事故の話を、お涙ちょうだいではなく割と淡々と描いているのですが、かといって突き放しているわけではなく、暖かい眼差しを感じます。以前から注目していた作品だったのですが、先に述べたような経緯で買うに至りました。今は第1巻しか出ていないのですが、9月29日に第2巻も出ます。
作品中には亡くなった身内と同じような死に方をした人も出てきましたし、航空法上、死んでしまった人間はヘリコプターでは“物”として吊り下げて運ぶしかないこと、雪崩でまだ1人埋まっていながらも、先に助けた1人を救うために現場を去らなければいけない場面等、読んでいると山岳遭難の冷徹な現実に切なくなる箇所も時々出てくるのですが、それでも人が山に登る「何か」をこの漫画はうまく描いていると思います。
1巻の第5話(第5歩)に三歩のこんなセリフがあります。
ある朝、窓から見える浅間山は活火山で火口には近づけないことを思い出したんだ。
オレは煙の出てるところが見たくて生まれて初めて山に登った。
けれど頂上についた時、火口のことなんてどうでも良くなっちゃって、ただただ思ったんだ。
みんな来ればいいのにって…………
ところで、どの分野でも言えることだと思うのですが、自分の関わっている分野の漫画やドラマ、映画などを見ると、細部のいい加減な描写が気になってしまい、興醒めしてしまうことはあると思います。山岳・クライミングものもひどいものが少なくありません。クリフハンガーなんて突っ込みどころが多すぎて笑っちゃいますし、今モーニングに連載中の堀内夏子のイカロスの山もちょっとあれれ?というところがあります。(イカロスの山のあれれについては、クライミング・ブック・ニュースさんが参考になると思います。)
しかし、この「岳」はそのようなことはなく、きちんと描かれています。他にも同ジャンルできちんと描かれているものを挙げると、夢枕獏の「神々の山嶺」を原作として谷口ジローが漫画化したものや、「夏子の酒」等で有名な尾瀬あきらの「オンサイト!」があります。(「オンサイト!」はフリークライミングを題材としていたのですが、第1部完という形で打ち切られているのが残念です。クライミングのことを丁寧に描いていましたが、一般の人にはあまりおもしろくなかったのでしょうね。)
余談ですが「神々の山嶺」は最初に出た単行本と、後の文庫版でラストの部分が微妙に変更してあるそうです。というのも、単行本が出てから文庫本が出るまでの間にこの小説の題材ともなっているマロリーの遺体が本当に発見されたからです。
「神々の山嶺」自体はものすごくおもしろいです。夢枕獏はダテに全部、吐き出した
と言ってるわけではありません。その年に読んだ本の中で一番おもしろかったです。思わず徹夜して読んでしまいました。別に山登りをやっていない人でも引き込まれる話だと思います(実際、私の周囲ではそんな声が)。
遺体発見を巡る実際の話に興味のある方は、「そして謎は残った−伝説の登山家マロリー発見記」を読んでみて下さい。
追伸:無念でなかったとは言えないと思うけど、こちらは大丈夫だから安心して休んで下さい。
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